なお、上記の通り現在は狩猟を目的としない保護区となっていることから、日本では「セルース動物保護区」と意訳されることもしばしばである。
歴史
この保護区の歴史は1905年に始まった。当時ドイツ領東アフリカに含まれていたルフィジ川沿いのこの一帯2500km2を、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が妻アウグステ・ヴィクトリアに贈ったのが最初である。当初は狩猟の好きなアウグステのための独占的な狩猟場として設定されていた。
第一次世界大戦の結果、ドイツ領東アフリカはイギリスのものとなったことに伴い、この保護区もイギリスのものとなった。当時サンバ・ヤ・ビビ(現地語で「妻の土地」)と呼ばれていた保護区は、この時から「セルース猟獣保護区」と改称された。セルースとは、探険家としても知られ、1918年にドイツ領東アフリカの戦闘に従軍して戦死したフレデリック・セルースを記念したものである。
その後の保護区は順次拡大された一方で、何度となく起こった観光開発化の議論に逆らい続け、現在まで続く人の手のほとんど入らない豊かな動物相を誇る巨大保護区へと成長したのである。
動物相
大型動物
数万頭から10万頭以上が確認されている大型動物として、ゾウ、アフリカスイギュウ、オグロヌー、サバンナシマウマ、インパラなどが生息している。このほか、カバ、キリン、レイヨウなども生息し、密猟によって数は大きく減ってしまったもののサイなども生き残っている。
その他
この地には伝染病を媒介するツェツェバエや、猛毒を持つブラックマンバなども生息している。人畜にとって非常に脅威となる生物であるが、これらの存在が人を遠ざけたことによって、環境が保持された側面があるのも事実である。
植物相
確認されている植物は2000種を超える。
登録基準
この世界遺産は世界遺産登録基準における以下の基準を満たしたと見なされ、登録がなされた。
- (9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
- (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
参考文献
- ユネスコ世界遺産センター(監修)『ユネスコ世界遺産 (12) 中央・南アフリカ』講談社、1997年
- 中川武 三宅理一 山田幸正(監修)『世界遺産を旅する・第12巻(エジプト・アフリカ)』近畿日本ツーリスト、1999年