白神山地

白神山地(しらかみさんち)は、青森県の南西部から秋田県北西部にかけて広がる山地で、人の手が加えられていないブナの原生林からなる地域である。昭和29年発行国土地理院地勢図には白神山地の名称が使われているが、世界遺産登録以前には弘西山地(こうせいさんち)とも呼ばれていた。

概要

全体の面積は13万haでそのうち約1万7千ha(169.7km²)がユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている。青森県側の面積はそのうち74%の126.3km²を占め、残る43.4km²は秋田県北西部にあたる。なお、白神山地は法隆寺地域の仏教建造物、姫路城屋久島とともに、1993年、日本で最初に世界遺産に登録された。

白神山地は、世界遺産登録地域の外側にも広大な山林を持ち、通常は、登録地域外も含めて呼ばれることが多い。その中でも特に林道などの整備が全く行われていなかった中心地域が世界遺産に登録されている。

世界遺産地域は、中央部の核心地域と、周辺の緩衝地域に分かれ、これらの地域は世界遺産登録時より開発を行わず、現状のまま保護されることになっている。従って、これらの地域には遺産登録以前からあった登山道以外には道はなく、今後も恒久的に整備されない予定である。特に核心地域には道らしい道はない。また、青森県側の核心地域に入るには、事前、あるいは当日までに森林管理署長に報告をする必要がある。秋田県側の核心地区は原則的に入山禁止である。核心地区は林道すらないので、そこを踏破するには極めて高度な技術を必要とする。世界遺産に登録されてから、核心地区での遭難事故もあり死亡者も出ている。

世界遺産登録地域は、登録前後に禁猟区に指定されている。漁を行うには漁業協同組合と森林管理署長の許可が必要である。なお、漁業組合はここを通年禁漁としている。

位置は青森県西津軽郡鰺ヶ沢町、深浦町、岩崎村、中津軽郡西目屋村、秋田県山本郡藤里町で標高300m~1243mの向白神岳に及ぶ山岳地帯である。(N 40°22'~32'、E 140°2'~12')

見どころ

ブナの原生林

ブナ(漢字は「橅(木に無)」)の木は従来、椎茸栽培以外にはあまり役に立たない木であったために伐採を免れたと言えるであろう。ブナは沢山の小さな実を付けるために、果樹と同様に寿命が短く、寿命は200年ほどであると言われている。自然に放置して倒れたブナは他の樹木や生物の生存に欠かせない栄養分を供給する。白神山地のブナの原生林は樹齢の若いもの、大木、老木、倒壊し朽ちたものまであらゆる世代が見られる。もちろんブナだけでなく、カツラハリギリアサダなどの大木も見られる。

白神山地は、名勝地のような美しい高山植物や雄大な景色を眺められる場所はあまり多くはない。眺望が良い場所や高山植物が咲いている場所に行くためには、それなりに苦労をしなければならない。世界遺産の登録は、観光地であるからではなく、このような人為の影響をほとんど受けていない原生的地区が広大に広がっている場所が世界的に珍しいためである。

白神山地の中で特に眺望が良い場所は、白神山地に詳しい根深誠は順番に天狗岳、小岳、二ツ森、白神岳をあげている。

白神山地は現在でも少しずつ隆起している地形で地盤が弱く、崖崩れが多発している。そのため、林道をつくっても崖崩れのために不通になってしまう場所が多い。また、冬期間は半年も雪に覆われる。そのため、大規模な林道建設を行うことが難しく、結果的に原生林が残されることになった。

暗門滝

3つの滝からなる暗門滝(青森県中津軽郡西目屋村)は、駐車場やバス停から片道1時間(第三の滝のみならば片道30分)で行け、また、世界遺産緩衝地域内にあるため、観光地として人気がある。滝までの山道の脇には、上記のようなブナの原生林があり、観察のための道も整備されている。ただし、滝の直前で川べりを歩くなど、通行には危険を伴う。また、増水時にはすぐに通行止めになるため、あらかじめ確認が必要である。

岳岱自然観察教育林

樹齢400年とも言われる巨大なブナをシンボルとした保護林。大小の苔むした巨岩とブナ林との対比が面白い。遊歩道やトイレなども整備されている。広い駐車場もあり整備が進んでいるが、最近ブナの傷みが指摘されている。また、この岳岱自然観察教育林の近くには田苗代湿原があり、ニッコウキスゲなどの高山植物が咲く。以前は「風景林」であったが、1992年に自然観察教育林として指定された。

二ツ森

世界遺産緩衝地域内にある山。国道101号線から真瀬林道、青秋林道を通った終点にある二ツ森登山道入口(標高約920m、駐車場、公衆トイレあり)から約5分で世界遺産地域に入れるため、観光地として人気がある。登山道を約1時間弱歩くと標高1,086mの二ツ森山頂に着く。頂上からは、世界自然遺産地域が一望できる。

白神ライン

白神ラインは、白神山地北部を横断する林道である。林道で大部分が砂利道なのだが、白神山地のネームバリューから、林道にかかわらず多くの車両が通行している。

津軽峠

ここにも、樹齢四百年ともいわれる巨木「マザーツリー」がある。津軽峠の駐車場から案内板通りに進みおよそ5分でこの巨木を見ることができる。津軽峠から高倉森を通る登山道も優れている。この津軽峠までは弘前市からのバスが通っている。

釣瓶落峠

釣瓶落峠は青森県西目屋村と秋田県藤里町の境にある峠。紅葉時には、天然秋田杉の緑との紅葉との対比が美しい。青森県道・秋田県道317号西目屋二ッ井線は秋田県側は完全に舗装されている。青森県側は釣瓶落峠から5km程度が舗装道となっている。

津軽国定公園十二湖

津軽国定公園を参照。

白神岳

JR白神岳登山口駅から山頂まで徒歩約5時間30分。標高1,231.9m、登山口のバス停及び駐車場から約4時間30分。山頂では、白神山地核心地域の雄大な景色を見ることができる。山頂にはトイレと避難小屋があるが、世界遺産登録以降登山客が増えオーバーユースが懸念される。

白神山地世界遺産登録地域には、この他に無許可で登山が可能で核心地域付近に入ることが可能な山は天狗岳、高倉森、櫛石山、小岳、真瀬岳などがある。また、遺産地区からははずれるが、白神山地の中にある登山可能な山としては藤里駒ヶ岳や田代岳、崩山、大峰岳、焼山などがある。

ミニ白神

JR鰺ヶ沢駅から車で30分。駐車場有り(30台)。藩政時代から田の水源を確保するための「田山」として300年以上地元の人の手により守られてきた。 およそ52haのエリアは人の手がほとんど加えられておらず、樹齢200年を超えるブナも見受けられ、白神山地核心部同様の森林景観を保っている。 全長2.8kmの遊歩道があり、外回り2.2km、内回り1.1kmのコースが選べる。コース上にはクマゲラの開けた穴や熊の爪痕のあるブナがあり、外回り最奥にはブナが水を吸い上げる音を聞くことができるように聴診器が置かれている。

悠久の森 白神フェスティバル

白神山地のふもと、秋田県山本郡八森町で、2001年より行われている野外コンサート。雄大な自然を讃える詩を、毎年全国から一般公募している。NHKのみんなのうたでKOKIAが歌う『悠久の杜』という曲は、第一回白神フェスティバルでの大賞作品に曲をつけた『悠久の森~My Home Town』である。

白神山地に生きる動物たち

  • 鳥類
キツツキの種類の中でも一番大きく、絶滅が心配されている天然記念物のクマゲラが穴をあけ巣造りをする。カラスのように大きなクマゲラが選ぶ木は朽ち始めたような木ではなく、元気な太い木である。また、外敵から守られるように蔦のからまった木は選ばない。その他、イヌワシ、クマタカ、シノリガモの生息が確認されている。
  • その他の動物では、カモシカ、ニホンザル、ヤマネ、ツキノワグマが生息する。秋田県では、ニホンザルが群れとして存在する場所は白神山地のみである。最近は、ニホンザルが町に降りてきて、農作物を荒らす問題も発生しており、白神山地ではニホンザルにエサを与えないように呼びかけている。

歴史

地質調査の結果、約8000年前には既にブナ林が形成されていたことが分かっており、約10000年前に最終氷河期が終わるとすぐにブナ林が形成されたと考えられる。その後、全く耕作されずに山地のままであった。これはブナに使い道がなかったことが大きく作用している。

歴史上、白神山地が初めて記述に現れるのは、1783年から1829年にかけて書かれた菅江真澄の日記『菅江真澄遊覧記』である。菅江は津軽藩(現在の青森県の西半分)の藩医の元で5年間、薬草指南を務めた。この前後から「白上」、「白髪が岳」との表記で白神山地への記述が現れる。津軽藩を去った後は佐竹藩(現在の秋田県の大部分)に召抱えられ、こちら側からも白神山地入りした。菅江によれば、この時代、ここで伐採したブナを川に流し、出荷していた木こりがいたことが分かっている。

この時代には既にマタギがここで猟を行っていたと考えられるが、いつ頃からいたのかについてははっきりしない。

1970年代になると、ブナは楽器の材料などとして活用されるようになり、白神山地も伐採計画が持ち上がった。1978年、白神山地の中央を通る青秋林道の建設が明らかになり、1982年、まず、秋田県側から工事が開始された。一方で翌年の1983年には早くも秋田県側で自然保護団体を中心に「白神山地のブナ原生林を守る会」が結成され、1985年には秋田市で日本自然保護協会主催の「ブナ・シンポジウム」が開催されるなど反対運動が活発化した。特に工事のために青森県側の水源かん養保安林指定解除の通告が1987年に地元に行われると青森県側を中心に反対運動が更に激しくなり、13,202人の署名が青森県知事に提出された結果、青森県側の態度が変化し、翌1988年、林道の建設は凍結された。なお、この林道は、建設が完了した秋田県側は現在でも通行可能である。

林道建設反対運動が激しくなった理由については、それ以前に白神山地に作られた弘西林道などの影響により、白神山地でひんぱんにがけ崩れなどが起きるようになり、下流に被害を生じたため、これ以上の被害を食い止めるためだったといわれる。

1990年、林野庁は白神山地を森林生態系保護地域に指定。この後、保護に向けた行政側の整備が進むことになる。

2004年3月31日 白神山地全域が国指定白神山地鳥獣保護区(大規模生息地)に指定される(面積32,218ha、うち特別保護地区947ha)。これにより、この地区のマタギの伝統が失われることとなった。

2007年9月白神岳の登山道沿いで、白神山地の巡視員がブナなど115本に巻き付いていたツルアジサイやイワガラミが根元近くで切断されているのを見つけた。夏以降、刃物で切られたとみられ、直径10センチ程度で樹齢100年近いツルも被害にあった。また、ブナの幹には切断した時についたらしい傷も確認された。このため、登山口にはつるを切らないように注意を呼びかける看板が設置された。

2008年9月上旬環境省西目屋自然保護官事務所委託巡視員がブナ約20本にカタカナや数字などが刻まれているのを発見した。人の胸の高さにナタのような刃物で、「オ」「ヨ」などのカタカナ、「八八三」「七四〇」といった数字が刻まれ、直径は10~20センチ。なかには表皮が1センチ以上えぐられ、幹に達している傷もあった。その後、10月に林野庁などの現地調査で緩衝地域でブナなど合計60本の木に傷があるのが発見された。被害木は迷いそうな場所で多く、何らかのルートを示そうとした可能性が高いと思われている。

2008年10月13日には林野庁東北森林管理局が青森県側の遺産地域内で、枝などが切断された樹木5本を発見したと発表した。

バイオビジネス

1997年、白神山地の秋田県側核心地区から新しい酵母菌「白神こだま酵母」が発見される。この酵母菌は耐冷性に優れ(パン生地を長期冷凍保存しても菌が生きている。したがってパン生地をより長期間冷凍保存できる)、発酵力が極めて強い酵母である。この他、天然甘味料のトレハロースを大量に作ることによる独特の甘みや、焼いた時の香りの良さなど各種の優れた性質を持っていて、現在、パン製造に幅広く活用されつつある。 白神山地は寒冷な気候で、ほとんど人が入り込まなかったため、独自の生態系を保ち、このような菌が生存競争を勝ち抜き生きてきたと思われる。白神山地からさらなる細菌を発見しようとする試みは続いていて、「白神こだま酵母」以外にも、低温に強く雑菌をなくす乳酸菌「作々楽(ささら)」など製品化にこぎつけた細菌も出てきている。

登録基準

Шаблон:世界遺産基準

地形的特徴

白神山地は、東北日本内弧の隆起帯に位置し、現在でも活発な隆起しており、これに伴う河川の浸食の結果、V字谷が形成されている。マグマが地下で固まった半深成岩や貫入岩類が硬いため、浸食の過程で取り残されると滝になる。また、泥岩や頁岩がすべりやすく、斜面崩壊や地滑りが多発している。地滑り地帯は奥地の割に地形がゆるやかとなり、木も若い。

関連項目

  • 日本の世界遺産
  • 世界遺産の一覧
  • 日本の秘境100選
  • 白神こだま酵母
  • カルパティア山脈のブナ原生林

外部リンク

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