ダム
ダム湖
発電所
1993年に着工、2009年完成予定であり、洪水抑制・電力供給・水運改善を主目的としている。三峡ダム水力発電所は、完成すれば1,820万kWの発電が可能な世界最大の水力発電ダムとなる。
貯水池は湖北省宜昌市街の上流に始まり、重慶市街の下流にいたる約660kmに渡り、下流域の洪水を抑制するとともに、長江の水運の大きな利便性をもたらす。加えて、水力発電所は中国の年間消費エネルギーの1割弱の発電能力を有し、電力不足の中国において重要な電力供給源となる。また、火力発電や原子力発電と比べCO2の発生も抑制することができる。しかしその一方で、建設過程における住民110万人の強制移転、三峡各地に残る名勝旧跡の水没、更には水質汚染や生態系への悪影響等、ダム建設に伴う問題も指摘されている。
三峡ダム水力発電所は、70万kW発電機26台を設置し、完成すれば1,820万kWの発電が可能になる。これは最新の原子力発電所や大型火力発電所では13基分に相当し、世界最大の水力発電ダムとなる。三峡ダム水力発電所の年間発生電力量は850億kWhであり、中国の電気エネルギー消費量が年間約1兆kWhであるから、三峡ダムだけで中国の電気の1割弱を賄えることとなる。この電力を石油を燃やした火力で作るとすれば、1年間に石油1750万トン、CO2排出5450万トンという数値になる。ちなみに、東京電力の一般家庭向け販売電力量はおよそ860億kWhで、日本の年間電気エネルギー消費量は約1兆kWhである。
三峡ダムの構想は、孫文(Sun Yat-sen)によるものとされ、1919年に『建国方策』の中で言及している。以降、国民党政府により調査が進められたものの、戦争や内戦により実現化されることなく白紙となった。
国共内戦を経て、1949年に中華人民共和国が建国されると、共産党政府は、1950年に長江水利委員会を設置し予備調査を開始した。調査は1956年に完了し、1963年に着工する方針が発表された。しかし、中ソ対立や文化大革命、さらには建設反対論などの影響により、しばらく計画は進展しなかった。
文化大革命が終結すると再び三峡ダムの構想が浮上し、1983年には三峡ダム事業化調査報告が提出される。これ以降、三峡ダムの建設を巡り賛否両論が噴出した。1989年、建設反対派の意見を掲載した『長江 長江-三峡工程論争』が出版されると、全人代の議論にも影響を与え着工が延期になると一時表明された。しかし、同年天安門事件が起き同書の著編者戴晴は逮捕され、同書も発売禁止となる。これ以降、建設反対論は抑制され建設賛成論が勢いを増す。
1992年、第7期全人代第5回会議は三峡ダムの建設を、出席者2633名中、賛成1767名、反対177名、棄権664名、無投票25名により採択した。全会一致が基本である全人代において、これほどの反対・棄権が出るのは異例のことである。1993年には三峡ダム建設の事業主体となる長江三峡工程開発総公司が設立された。
三峡ダムの建設工事は、1993年に準備工事が開始され、翌1994年に着工式が行われるとともに、本工事が始まった。1997年には、長江の本流が堰止められ、第二期工事を開始した。2003年には、一部貯水(水位135m)と発電を開始し、第三期工事を開始した。そして2006年5月20日、三峡ダムの本体工事が完了した。現在三峡ダムは第三期工事中であり、計画通り進行すれば2009年に発電所等を含めた全プロジェクトが完成する。
中国指導部の胡錦涛国家主席や李鵬前総理はいずれも発電技師出身であり、三峡プロジェクトを強力に推進している。また中国国務院の温家宝総理は三峡工程建設委員会主任を兼ねている。しかし、2006年5月20日に行われたダムの完工式には彼等は一人として出席していない。この規模の国策事業の節目において最高指導部が欠席することは異例と言ってよく、その背景が注目されている。
ダム工事に伴い強制移転を余儀なくされた住民の数は2007年12月の時点で140万人に及ぶ。また2020年までに更に230万人が退去予定である。これら「三峡移民」の多くは充分な補償も受けられないまま貧困層へと転落しており社会問題となっている。
三峡は中国の10元紙幣にも描かれるほどの中国を代表する名勝であり、多数の船が国内・国外からの観光客を乗せてクルーズしている。しかし、ダムができることで、長年親しまれていた景観が大きく変わってしまう。
三峡ダムの水没地及び周辺地域からの汚染物質の流入により長江流域、黄海の水質悪化、アオコの大量発生および、生態系への影響が懸念されている。
環境対策としては、三峡ダム地区(湖北省 - 重慶市)の汚水処理施設及びゴミ処理場の設置計画が2001年に了承され(建設費は国が負担)、建設、稼働している。しかし、人口3000万人を超える重慶など上流域での、工業・生活排水対策が不十分であれば、貯水池は「巨大な汚水のため池」になりかねない。運営費は自治体負担のため、完成後稼働していない施設・処理場が多い。国家環境保護局が2005年に行った調査では、「7割がまったく未稼働か、時々しか稼働していない」状態にあったという。そのため、水の富栄養化に大きな影響を及ぼす窒素化合物やリンの除去処理を行っていない施設も多い。湖北省と重慶市は、対応策として施設運営費を「国8割、地方2割」とするよう求めている。
中国国家環境保護総局は、貯水開始後のダム地区の水質について、「大きな水質変化はない」との観測結果を発表している。だが、一部水域で、大腸菌群や人血吸虫、浮遊物による汚染が発生していることも明らかにしており、環境への悪影響が懸念される。
また、2002年以降、エチゼンクラゲが日本沿岸で大量発生し漁業被害が深刻化しているが、その要因の1つが三峡ダムではないかという仮説が立てられており、国立環境研究所などが検証を始めている。
三峡ダムは、流入する土砂で埋没してしまうのではないかと懸念する意見もある。これに対して当局は、三峡ダムは流域面積108.4万平方Km、土砂流入 5.3億トン/年で、年間平均総流入量4500億トンに対し、有効貯水量は220億トンで5%にも満たない。また、土砂吐きにはダム下流側に7m×9mのゲート23門を設け、6月~9月の洪水時に175m満水位から35m水位を下げて、洪水と共に土砂を排出する計画になっており問題は生じないとしている。
中国の清華大学では、100年にわたる土砂堆積を予測する実験を行い、懸念される土砂の堆積について次のように解説している。「年間平均5.3億トンの土砂流入と推測されるが、ダム完成直後は土砂が貯水池に堆積し、下流への流出土砂は流入してくる土砂より少なくなる。しかし75年経つと流入土砂量とダムから下流へ流出する土砂量とが等しくなる」(これは三峡ダムに限らず、世界中のどのダムにも共通して言えることである)
しかし、この手法では、ダム底にたまる砂利や栗石の排出は困難であり、また、そもそも土砂排出が計画通り機能するかに関しても疑問を呈する声がある。
2006年8月、香港の中国人権情報センターは三年以内に三峡ダムが強い地震を引き起こす可能性があると発表した。また中国国務院の温家宝総理もこの件について憂慮しているとも添えられている。同発表によると、当局は 1993年より同ダム近辺についての地質調査を行っているが、その結果および重要な地質資料が極秘となっている為に、外部機関が精査することが出来ないとしている。
蓄積された水の重さにダム付近の岩盤や地質が耐え切れずに「地震」を引き起こすのでは無いかという懸念が寄せられているのも事実である。仮に何らかの理由でダムが決壊した場合、その流域に未曾有の大惨事をもたらすことは必至である。
三峡ダムとの関連性を指摘されている。
(戦争等により進展せず白紙に)
(中ソ対立・文化大革命・ダム建設反対論等により中断・進展せず)
(以降、建設の賛否を巡り議論が続く)